慶應義塾大学医学部生理学教室の岡野栄之教授(理化学研究所脳神経科学センターマーモセット神経構造研究チーム チームリーダー)、近藤崇弘特任助教(同研究チーム 訪問研究員)と、理工学部生命情報学科の牛場潤一准教授、大学院理工学研究科博士課程の齊藤璃紗、修士課程(研究当時)の大高雅貴、医学部精神・神経科学教室の田中謙二准教授、スタンフォード大学のマーク・シュニッツァー准教授らの共同研究グループは、小型蛍光顕微鏡を用いて自由行動中のマーモセット脳深部神経活動の可視化に世界で初めて成功しました。
これまで、脳深部の神経活動を大規模に計測するためには2光子顕微鏡が使用されてきましたが、動物の頭部を装置に固定する必要があったため、複雑な動作や社会行動を行わせながら神経活動を計測することはできませんでした。共同研究者のシュニッツァー准教授らが開発したInscopix社のnVistaと呼ばれるわずか2gの超小型蛍光顕微鏡は、内視鏡レンズを脳に埋植することで脳深部の神経活動を自由行動環境下で計測することができます。本研究グループはこの小型蛍光顕微鏡を用いて、マーモセット大脳皮質運動野の深部(脳表から約2000μm)の神経細胞活動を、自由行動環境下で計測することに成功しました。また、計測された個々の神経活動のパターンにもとづき、マーモセットが右側、あるいは左側のどちらに手を伸ばすか行動を予測することができました。
この内視鏡レンズを用いた観察手法は、より脳の深部に位置する大脳基底核や海馬などの領域における観察にも応用が可能であり、運動や認知、記憶などの霊長類における複雑な脳機能に関わる神経ネットワークの研究の有力なツールとなります。さらに精神・神経疾患モデルマーモセットに対し適用することで、ヒトにおける精神・神経疾患の新たな治療へ展開されることが期待されます。
本研究の成果は8月22日(日本時間)に Cell Reports誌に掲載されました。
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