慶應義塾大学医学部内科学(消化器)教室の佐藤俊朗准教授らの研究グループは、36例のヒト由来胃がん細胞の効率的な体外培養・増殖に成功し、“Wnt”と呼ばれる増殖因子によって多くの胃がんの細胞増殖がコントロールされることを見出しました。さらに、動物実験モデルを用い、Wntを標的とした治療法が胃がんに有効であることを示しました。
多くのがんは、遺伝子変異が原因である細胞増殖異常によって致死的な病となることが分かっています。しかしながら、胃がんの細胞増殖異常につながる遺伝子異常については十分に解明されていませんでした。
本研究グループは、新しい培養技術によって、36人の患者さんの胃がん細胞を体外で培養し、胃がんの細胞増殖異常につながる遺伝子異常の調査をおこないました。胃の正常細胞はWnt とR-spondinと呼ばれる2つの増殖因子が協調して細胞増殖を制御していますが、多くの胃がんはR-spondinがなくても増殖できる能力を獲得していることを発見しました。さらに、研究グループは、こうした胃がんに特徴的な遺伝子変異を特定し、それらの遺伝子変異がヒトの正常胃細胞の増殖異常につながることを実証しました。興味深いことに、多くの胃がんは、その増殖にR-spondinが不要となっても、Wntは依然として必要であることを見出しました。 こうした結果を基に、ヒト由来の胃がん細胞を移植したマウスモデルを用い、Wntを抑制する標的治療薬が胃がんの増殖を著明に抑えることを示しました。
本研究は、胃がんの多くがWntと呼ばれる増殖因子に依存していることを初めて明らかにしており、今後胃がん根治を目指した治療の新しい突破口となることが期待されます。
この研究成果は、2018年8月9日(米国東部時間)に米科学誌『Cell』に掲載されました。
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