慶應義塾大学医学部医化学教室の杉浦悠毅専任講師、西本紘嗣郎講師(非常勤)(埼玉医科大学国際医療センター泌尿器腫瘍科兼務)らの研究グループは、大阪大学の新間秀一准教授、横浜労災病院の西川哲男名誉院長らと共同で、ラットやヒトの副腎組織において高血圧症の原因となるステロイドホルモンであるアルドステロンの局在を、「新しい高感度イメージング質量分析法」により視覚化することに成功しました。この手法は、ステロイドホルモンを組織切片上で誘導体化することにより、従来の質量分析を用いたイメージング法に比べはるかに高感度度に画像を取得できる新規の手法です。
マウスやラットの副腎皮質は層状の構造を持ち、それぞれの層がアルドステロン、コルチゾル、および性ホルモン等を産生することが知られていました。研究グループは以前から、ヒト成人の副腎皮質は層状というよりは斑入り状であり、粒状のアルドステロン産生細胞塊 (aldosterone-producing cell cluster: APCCと命名)が主なアルドステロン産生部位であることを提示してきましたが、実際に可視化には至っていませんでした。
今回、新しいイメージング手法である高感度イメージング質量分析法により、高血圧患者のAPCCと呼ばれる細胞群が、副腎においてアルドステロンを産生している様子を画像として捉えることに成功しました。さらに粒上のAPCC細胞群が、巨大なアルドステロン産生腺腫瘍(APA)に肥大化し、より多くのアルドステロンを産生する様子も画像として報告しています。また異常なAPCCやAPAのみが産生し、正常の副腎皮質細胞には見られない異常なステロイドホルモンの分子種を、画像解析から同定する事もできました。
今回の研究成果により、軽度の高血圧患者に潜むAPCCが、重度の原発性アルドステロン症の病巣であるAPAの発生母地である事を明らかにしました。さらにAPCCやAPAが発生している患者を同定するバイオマーカー開発が進むことも期待できます。
本研究成果は、2018年10月22日(米国東部時間)にHypertension誌に掲載されました。また、この内容は同誌のEditorial Commentaryの対象となっています。
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