慶應義塾大学薬学部と東京大学大学院工学系研究科の研究グループは、生体の水素ガス濃度や特定の腸内細菌が腸炎の病態と相関することを明らかにしました。本研究は慶應義塾大学薬学部薬学研究科修士課程2年の藤木雄太(ふじき ゆうた)(研究当時)、同大学薬学部の金倫基(きむ ゆんぎ)教授、東京大学大学院工学系研究科の田中貴久(たなか たかひさ)助教(研究当時)、内田建(うちだ けん)教授の研究グループの成果です。
炎症性腸疾患(Inflammatory bowel disease: IBD)は、腸に炎症が起き、腹痛や下痢が繰り返し起こる病気です。IBDの診断には内視鏡検査が最も一般的ですが、より簡便で、非侵襲的な手法の確立が求められています。その中で、呼気分析が新たなIBDの診断法として注目されています。実際に、健常者とIBD患者の呼気成分に違いがあることが報告されています。しかし、IBDの発症や病態を予測するガス成分はこれまで見つかっていません。
本研究では、実験的大腸炎モデルを用いて、腸炎を誘発したマウスの複数の生体ガスの濃度変化を測定した結果、水素濃度が腸炎の病態と最も強く相関することを発見しました。また、水素産生菌を含む、特定の腸内細菌群の相対存在量が、腸炎の病態および水素の濃度変化と相関していることも分かりました。
以上のことから、生体の水素ガスは、腸炎の発症や病態を予測するためのバイオマーカーとして利用できる可能性が示唆されました。IBDは再燃と寛解を繰り返す難治性の腸炎です。呼気中の水素濃度を経時的・高精度に計測することにより、IBDの発症・再発を早期に発見し、また、治療効果を予測できる可能性があり、今後の実用化に期待が持たれます。本研究成果は、2023年11月6日にケンブリッジ大学出版局(Cambridge University Press)の『 Gut Microbiome』(電子版)に掲載されました。