慶應義塾大学大学院理工学研究科の稲葉和樹(博士課程3年)、内藤優奈(修士課程2年)、立花実奈(修士課程1年)、同大学理工学部応用化学科の戸嶋一敦教授、高橋大介准教授らは、単糖が鎖状に連結した分子である「糖鎖」の中でも、五員環糖の一つであるβ-アラビノフラノシドに着目し、芳香族ボロン酸を用いることで、完全な立体選択性および高い位置選択性で、効率的な配糖化が行える有機化学的新手法の開発に成功しました。
β-アラビノフラノシドは、結核菌の細胞壁や植物ホルモンに含まれ、これまでにさまざまな生物活性が報告されてきました。近年では、植物の花粉より抽出された糖タンパク質が、アレルギー予防に利用できる可能性が示唆され、アレルギー反応を抑制する新たな医薬品候補化合物となることが期待されています。しかし、天然から直接単離される花粉抽出物は、活性にばらつきがある糖タンパク質の混合物として得られる点や、エンドトキシン由来の毒素を含む点から、医薬用途としての利用が制限されています。そこで、本研究で開発した有機化学的手法を用いることで、毒性をもたない単一な構造をもつ五員環糖鎖の効率的な合成が可能となり、新たな抗アレルギー剤の開発が期待されます。
本研究成果は、2023年7月2日に、ドイツ化学会誌「Angewandte Chemie International Edition(アンゲバンテ ヘミー インターナショナル エディション)」のオンライン版で公開され、また、同誌の表紙として採択されました。