慶應義塾大学医学部生理学教室の孫 怡姫(ソン イキ)(大学院医学研究科博士課程学生)、岡野栄之教授らの研究グループは、中枢神経系内唯一の常在性免疫細胞であるミクログリアを、ヒトiPS細胞から高効率に分化誘導する新たな方法を開発しました。
中枢神経系(脳と脊髄)には、恒常性の維持に重要な役割を果たす免疫細胞であるミクログリアが存在します。ミクログリアは、死んだ細胞を除去したり、ほかの神経系細胞の維持や分化を促したり、過剰な神経活動を抑制するなど、様々な中枢神経系固有の機能を持っています。
近年、アルツハイマー病や前頭側頭型認知症などの中枢神経系疾患の原因遺伝子、もしくはリスク遺伝子がミクログリアに高く発現していること、またミクログリアはこれらの疾患の病態進行に影響することが報告され、神経疾患の研究において世界的な注目を集めています。
本研究では、単一の転写因子の過剰発現により、ヒトiPS細胞からミクログリアの高効率な分化誘導法を開発し、ヒトミクログリアを用いた中枢神経疾患の解析モデルを構築しました。この方法により作製したミクログリアは、遺伝子発現プロファイルや生理機能などを評価したところ、ヒト脳内のミクログリアに近い性質を持つことが確認されました。この成果はミクログリアに起因する数多くの神経疾患の創薬研究や治療法開発への応用が期待されます。
本研究成果は2022年7月1日(英国時間)に国際科学雑誌であるInflammation and Regenerationに掲載されました。