慶應義塾大学の研究グループは、腸内細菌叢が宿主の酸化ストレス防御に寄与する新たな仕組みを発見しました。本研究は慶應義塾大学薬学部薬学科の内山純(うちやま じゅん)、同薬学部の秋山雅博(あきやま まさひろ)特任講師、金倫基(きむ ゆんぎ)教授を中心とする研究グループの成果です。
酸化ストレスは多くの疾患発症への関与が知られています。そのため、生体内の抗酸化物質の量的維持が健康維持に重要です。近年、腸内細菌が産生する多様な代謝物が、腸管を越えて宿主の多様な臓器機能に影響を与えていることが明らかになっています。しかしながら、宿主の抗酸化能に対する腸内細菌の寄与については不明なままでした。
本研究では、腸内細菌叢が抗酸化物質である活性硫黄分子の生体内の量的維持および上昇に寄与していることを発見しました。また、腸内細菌はシスチンを基質として活性硫黄分子のひとつであるシステインパースルフィド(CysSSH)を酵素反応的に産生することも分かりました。そこで、シスチンをマウスに投与したところ、腸内細菌叢依存的に血漿中の活性硫黄濃度が上昇し、酸化ストレス性肝障害が抑制されました。さらに、活性硫黄分子を高産生する腸内細菌も明らかにすることができました。
酸化ストレスは、食・生活習慣の悪化、心理的・肉体的ストレス、老化等により増加しますが、その結果、活性酸素種によるDNAやタンパク質の酸化的損傷が起こり、心血管疾患・がん・糖尿病・神経変性疾患を誘発します。本研究成果から、活性硫黄分子を高産生する腸内細菌が我々の酸化ストレスに対して防御的に働く可能性が示唆されました。今後はこの活性硫黄分子の高産生菌や、これらの細菌の機能を向上させる物質を利用した創薬や食品開発への進展が期待されます。
本研究成果は、宿主‐腸内細菌間の相互作用における新たな分子基盤の解明に繋がると期待されます。本研究成果は2022年3月8日(米国東部標準時)に国際学術誌『Cell Reports』(電子版)に掲載されました。