慶應義塾大学グローバルリサーチインスティテュートの船戸匠特任助教(スピントロニクス研究開発センター)と中国科学院大学カブリ理論科学研究所の松尾衛准教授は、磁石に音波を注入すると、磁気回転効果によって起電力が発生することを理論的に示しました。
アインシュタインやバーネットらによって発見された磁気回転効果は、物質の磁気の起源がスピンと呼ばれる電子の自転運動であることを示す歴史的にも重要な現象ですが、その効果はとても小さく、物質の磁気制御が不可欠なスピントロニクスデバイスへの応用が不可能とされていました。しかし最近、表面弾性波と呼ばれる音波を用いることで結晶格子点を1秒間に10億回以上回転させて、磁気回転効果を用いたスピンの流れを生み出す方法が実証されました。さらにこのスピンの流れを起電力に変換する方法も発見されていましたが、貴金属を含む複雑なデバイス構造が必要でした。
そこで本研究グループは、表面弾性波を注入することで格子の回転運動を誘起した磁性金属薄膜単体中の磁化、電子スピン、格子回転の三者の絡み合い方を記述する理論を構築し、起電力が発生することを突き止めました。これは貴金属および複雑なデバイス構造を必要としないため、これまで困難だった磁気回転効果のスピンデバイス応用に大きく道を拓くことが期待されます。
本研究成果は、2022年2月18日(米国東部時間)発行の米国物理学会誌「Physical Review Letters」のオンライン版で公開されました。