慶應義塾大学理工学部物理情報工学科の牧英之教授らは、原子オーダーで薄い炭素材料であるグラフェンを用いたマイクロヒーターをシリコンフォトニクスと融合することにより、高性能なシリコンチップ上光スイッチを実現しました。本技術は、光通信における通信経路の高速な切り替えや、シリコンチップ上に集積した光集積回路や光量子情報チップなど、新たなシリコンチップ上光デバイスへの応用が期待されます。
光スイッチは、光信号の経路を電気信号に変換することなくダイレクトに切り替える素子であり、光通信においては、データを転送する通信経路の切り替えに用いられるなど、高速通信を支える重要な素子です。現在、様々な方式の光スイッチが開発されていますが、次世代の高集積で小型な光スイッチとしては、シリコンチップ上に集積した光導波路を用いた光スイッチが注目されています。この方式では、ヒーターによる加熱によって屈折率を変化させる熱光学効果で動作する光スイッチが主流となっていますが、現在の金属によるヒーターでは、スイッチ速度や効率といった性能向上の限界が課題となっていました。
今回、従来の金属に代わり、優れた熱特性を有するグラフェンを用いて、シリコンフォトニクスデバイスに対してダイレクトにグラフェンマイクロヒーターを形成した新しい光スイッチを開発しました。その結果、従来の金属ヒーターと同様の素子構造の光スイッチにおいても大幅に性能が向上し、応答時間が数マイクロ秒という極めて高速な光スイッチを実現しました。本技術により、二次元系材料であるグラフェンは、シリコンフォトニクスにおける光スイッチ用材料として極めて有望であることが示されました。今後、次世代の大容量光通信用チップ、光インターコネクトや光集積回路、量子情報チップなど、様々なチップ上集積光デバイス技術への応用が期待されます。
本研究は、東京大学先端科学技術研究センター (研究当時は慶應義塾大学理工学部)の門内靖明准教授と共同で行ったものです。
本研究成果は、2022年2月14日に米国化学会(ACS)のACS Nanoオンライン版で公開されました。