慶應義塾大学理工学部の中嶋 敦 教授、株式会社アヤボの塚本 恵三 代表取締役社長、茨城大学大学院理工学研究科(工学野)の江口 美佳 教授、物質・材料研究機構の安藤 寿浩 博士らは、気相中で生成した白金ナノクラスターをマリモカーボン(MC; Marimo Carbon)に直接担持して作製した燃料電池触媒の最大電力密度が9.6 W/mgPtとなり、標準的な電極触媒より優れた発電性能を示すことを明らかにしました。
水素エネルギーを利活用する水素社会の実現に向けて、燃料電池はエネルギー効率の高さや低環境負荷の点から、近年重要視されています。しかし、燃料電池自動車の普及に関しては、触媒における白金使用量の低減や耐久性の向上が大きな課題となっていました。また、従来の標準的な白金系燃料電池触媒は液相法により調製されていたため、残存した配位子による触媒活性の低下も問題視されていました。
本研究グループは、気相法により清浄な白金ナノクラスターを大量合成して、担体として耐久性やガス拡散性などに優れているMCに直接担持することで燃料電池触媒を作製しました。この触媒から単位面積あたりの白金量を0.05 mg/cm2として膜電極接合体(MEA; Membrane Electrode Assembly)を作製し、5 cm×5 cm角のJARI標準セルに組み込んで燃料電池の発電試験を行ったところ、電流密度1.2 A/cm2で最大電力密度が9.6 W/mgPtという結果が得られました。また、単位出力あたりの白金使用量は0.105 g/kWとなりました。これらの結果は、白金使用量を低減した燃料電池への応用技術として利用価値が高いと考えられます。本研究成果は、2021年12月8日(英国時間)に英国王立化学会の学術誌「RSC Advances」で公開されました。