慶應義塾大学医学部内科学教室(循環器)の白川公亮訪問研究員と佐野元昭准教授と小林英司客員教授らの研究グループは、慶應義塾大学グローバルリサーチインスティテュート水素ガス治療開発センターの活動のなかで、水素がphorbol-12-myristate-13-acetate(PMA)やカルシウムイオノフォアA23187で刺激した際の好中球細胞外トラップ(Neutrophil Extracellular Traps, NETs)の産生を抑制することを明らかにしました。さらに、マウスおよび高齢のマイクロブタにリポ多糖(LPS:Lipopolysaccharide)で敗血症を誘発した際に、水素吸入療法が、肺におけるNETsの産生を抑制することを確認しました。
NETsは、核内に存在したDNAやヒストン、細胞質の顆粒中に存在した好中球エラスターゼ、ミエロペルオキシダーゼなどの蛋白が結合した構造物です。細胞外に放出されたNETsは、網目状に拡がって病原体を付着させ病原体を封じ込めることができますが、過剰に発動すると炎症や血栓症の増悪因子になります。
中国・武漢では、新型コロナウイルス肺炎の治療に水素吸入が採用され、重症化予防に一定の効果をあげたことが報告されました。一方、新型コロナウイルス感染患者の血液中の好中球は、より高いレベルのNETsを産生しており、肺の傷害や微小血管血栓の形成に深く関与していることが知られております。研究グループは、NETs形成に着目して研究を行い、水素が活性化された好中球による過剰なNETs産生を抑制することを発見しました。
本成果は、2022年1月12日(英国時間)『JACC: Basic to Translational Science』電子版に掲載されました。