慶應義塾大学大学院理工学研究科の修士2年 船越悠、紫藤拓巳、同大学理工学部の岡浩太郎教授、堀田耕司准教授らは、ヨーロッパザラボヤ(Ascidiella aspersa)をバイオイメージング研究の新規モデル生物とするための第一歩として、発生段階の定義づけと三次元胚画像リソースの構築を行いました。
ヨーロッパザラボヤは、脊椎動物に最も近い尾索動物に属するホヤの一種です。このホヤは日本だけでなく世界中で侵略的に繁殖し、養殖ホタテガイに付着することで漁業被害をもたらす有害外来種として有名です。一方、我々は本種の胚は可視光の90%を透過するほど透明であることを見出し、バイオイメージング研究に役立つモデル生物としての潜在的な可能性を模索しています。しかし、これまで本種の発生研究に必要不可欠な標準発生段階表はありませんでした。
本研究はヨーロッパザラボヤをモデル生物として確立するための最初のステップとして、カタユウレイボヤの世界標準発生段階表を参照し、受精卵から孵化幼生までの28の異なる発生段階をヨーロッパザラボヤ用に定義しました。さらにこの発生段階表をWebベースの三次元胚画像リソースとして整備し、世界中の誰もが閲覧できるようにしました。このリソースには、共焦点レーザー走査顕微鏡で撮影された実に3,000を超えるヨーロッパザラボヤ胚の断層画像と3D画像が含まれています。
本研究で構築したヨーロッパザラボヤ3D画像リソースは、さまざまなオミクスデータを発生段階の各時空間階層と結びつけるために不可欠であり、ヒトを含む脊索動物の胚発生や系統進化をシステムレベルで理解するのに役立つと期待されます。さらにヨーロッパザラボヤの研究基盤の整備により本種の研究が進めば、ホタテガイの貝殻への付着防止策につながると考えられます。
研究成果は、2021年12月17日にスイスの科学誌『Frontiers in Cell and Developmental Biology』にオンライン掲載されました。