慶應義塾

超高速量子メモリ動作を引き出す素子設計

-熱に頼らない高効率な磁気情報の書き込みに向けて-

公開日:2026.07.14
広報室

東京大学

慶應義塾大学

科学技術振興機構(JST)

発表のポイント

  • 量子効果により、超高速・超低消費電力なスイッチング動作を可能にする反強磁性体が、次世代不揮発性ロジック・メモリ向けの新しい磁気記録層材料として注目されている。

  • カイラル反強磁性体Mn3Snと重金属からなる素子において、磁性層を薄くすることで、熱によるスイッチング機構を抑え、スピン流が磁気秩序を直接書き換える高効率な量子スイッチングが実現できることを明らかにした。

  • 本成果は、素子形状の最適化により、温度上昇と消費電力を抑えた高速な磁気記録が可能になることを示し、反強磁性体を用いた超高速・低消費電力ロジック・メモリの素子設計に重要な指針を与える。

東京大学大学院理学系研究科の松尾拓海大学院生(研究当時)、肥後友也特任准教授(研究当時)(現:慶應義塾大学 理工学部 准教授)、中辻知教授らを中心とする研究グループは、次世代の超高速・低消費電力ロジック・メモリ向け磁気記録層材料として期待される反強磁性体において、スピン軌道トルク(SOT)による磁気状態の電気的スイッチング機構を、膜厚や放熱性を含む素子構造によって制御できることを明らかにしました。特に、発生した熱を効率よく逃がすことで、ジュール熱に頼らず、反強磁性体が本来もつピコ秒(1兆分の1秒)スケールの高速な磁気ダイナミクスを活かしたスイッチング機構が引き出せることを示しました。

本研究では、カイラル反強磁性体Mn3Sn薄膜を用いた素子において、SOTによる磁気記録特性がMn3Snの膜厚によってどのように変化するかを調べました。その結果、膜厚を薄くして発熱の影響を抑制することで、磁気スイッチング機構が、発熱と冷却過程に支配される「温度アシスト機構」から、スピン流が反強磁性秩序を直接制御する「内因性機構」へと移行することが明らかになりました。内因性機構による書き込みでは、反強磁性体の高速な磁気ダイナミクスを活用できるため、温度アシスト機構よりも短い電流パルスでのメモリ動作や、大幅な省エネルギー化が期待されます。本成果は、反強磁性体の超高速磁気ダイナミクスを活用した新しい不揮発性メモリ技術の実現に向けた重要な基盤となるものです。

本研究成果は、2026年7月13日付で国際科学雑誌『Nature Communications』のオンライン版に掲載されました。

プレスリリース全文は、以下をご覧下さい。

プレスリリース(PDF)