慶應義塾大学医学部皮膚科学教室の入來景悟共同研究員(研究当時:大学院生)、高橋勇人准教授、天谷雅行教授らの研究チームは、自身の表皮蛋白を攻撃するT細胞をリンパ節で排除する新たな機構を明らかにしました。
ヒトは病原体を排除する手段として免疫機能を備えています。この機能は、さまざまなウイルスや細菌を撃退できる多様性を持ちますが、間違って自身を攻撃しない仕組みがあります。これを免疫寛容機構と言います。この機構が機能せずに、自己反応性T細胞が生まれると、自身に対する攻撃が起こり、組織が傷害されると自己免疫疾患を発症します。免疫寛容機構は、主に胸腺で免疫細胞が作られる段階で機能する「中枢性機構」と、末梢組織で免疫細胞が標的抗原を攻撃する段階で機能する「末梢性機構」に分けられます。
今回、研究チームは、皮膚の細胞の結合蛋白であり、自己免疫疾患の尋常性天疱瘡で免疫の標的となっているデスモグレイン3(Dsg3)に対する免疫寛容機構のうち末梢性機構の解析を行いました。その結果、中枢性機構により除去されることを回避したDsg3反応性T細胞が末梢で排除される仕組みが存在することを明らかにしました。また、その仕組みには制御性T細胞が持つOX40という分子が不可欠な役割を担っていることを明らかにしました。この基礎研究の成果は、ヒトの身体を健康に保つ為の巧みな機構の一端を明らかにしたものであり、自己免疫疾患の新しい治療法や発症予防法の開発につながりうる成果です。
本研究成果は、2021年12月7日(米国中部標準時)に米国科学誌『Proceedings of the National Academy of Sciences』に掲載されました。