慶應義塾大学、明治ホールディングス株式会社を中心とする研究グループは、アミノ酸、特にグルタミン酸の摂取が、個体の飲水量を増加させることにより、細菌感染性の下痢にともなう脱水症を抑えることを明らかにしました。本研究は慶應義塾大学薬学研究科修士課程君塚達希(きみづか たつき)(研究当時)、同薬学部の金倫基(きむ ゆんぎ)教授、明治ホールディングス株式会社を中心とする研究グループの成果です。
感染性胃腸炎は、ウイルスや細菌などの腸管感染により引き起こされる疾患で、特に発展途上国の小児において死亡者・罹患者の多い、世界的にも重要な疾患の一つです。感染性胃腸炎の症状として、下痢、嘔吐、悪心、腹痛、発熱などがありますが、その病態は、栄養状態によって変化することが知られています。そのため、食事が臨床症状に影響を与える可能性が考えられますが、その実際については不明な点が残されています。
本研究では、マウスの致死的な感染性下痢症モデルを用いることにより、アミノ酸食が腸管病原細菌感染後の生存率を劇的に向上させることを見出しました。アミノ酸食は腸管病原細菌の腸内での定着や、感染後の炎症を抑制しませんでしたが、感染性の下痢にともなう脱水症を強く抑えました。このアミノ酸食摂取による脱水症の抑制に、飲水量の増加が一因であることが分かりました。アミノ酸分析・16SrDNA解析結果から、アミノ酸食の摂取は、血中や腸内のグルタミン酸濃度を高め、腸内細菌叢を変化させることが明らかとなりました。そこで、グルタミン酸を経口的にマウスに摂取したところ、飲水量の増加が観察され、細菌感染性の下痢による脱水症を予防することができました。
以上のことから、アミノ酸、特にグルタミン酸の摂取は日常的な飲水量を増加させることにより、脱水症のリスクを下げ得ることが明らかになりました。また、その飲水量の増加は、腸内細菌叢の変化を介した効果である可能性も示唆されました。本研究成果により、アミノ酸による食事介入や腸内細菌叢の改善が、感染性の下痢による脱水症だけでなく、体内水分量が不足しやすい高齢者や乳幼児などの「かくれ脱水」に対しても有効であることが考えられ、今後の実用化に期待が持たれます。本研究成果は、2021年5月31日(米国東部時間)に国際学術誌『Nutrients』(電子版)に掲載されました。