慶應義塾大学医学部坂口光洋記念講座(オルガノイド医学)の佐藤俊朗教授、杉本真也助教、同内科学(呼吸器)教室の胡谷俊樹特任助教、安田浩之専任講師、北里大学大村智記念研究所(ウイルス感染制御学)の片山和彦教授らの共同研究グループは、新型コロナウイルスの主要な感染巣であるヒトの肺胞の細胞を、オルガノイド培養技術を用いることで効率的に増殖させる技術を開発し、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬の効果判定を行う評価系を確立することに成功しました。
COVID-19は、2019年に中国武漢で発症が確認されて以来、全世界で猛威を奮っている新興感染症です。しかし、新型コロナウイルスの主要感染巣であり重症化に関与するヒトの正常な肺胞細胞は短期間の体外培養しか行えず、これらを用いた治療薬の効果判定を行うことができないという制限もあり、その治療薬の開発は困難な状況です。
今回、研究グループはヒト組織由来の肺胞細胞をオルガノイドを作成する技術により効率的かつ長期的に培養する方法を確立し、肺胞オルガノイドに新型コロナウイルスを感染させた後に治療候補薬を投与し、経時的なウイルス量の測定により、その治療効果を判定する評価系の構築に成功しました。
本研究で開発された方法は、ヒト正常肺胞細胞の培養方法の確立により、肺胞における新型コロナウイルスの感染状態を体外で再現し、治療薬の効果を直接的に確認することができる方法として、今後COVID-19をはじめとする、肺炎を起こすさまざまな呼吸器感染症の病態解明や治療薬開発に役立つことが期待されます。
この研究成果は、2021年5月19日(米国東部時間)に米科学誌『Cell Reports』のオンライン版に掲載されました。