慶應義塾大学医学部感染症学教室の南宮湖専任講師(発表時:日本学術振興会特別研究員、米国国立衛生研究所博士研究員)、長谷川直樹教授、国立国際医療研究センターゲノム医科学プロジェクト(戸山)の大前陽輔上級研究員、徳永勝士プロジェクト長らの研究グループは、近年急増する難治性呼吸器感染症、肺MAC症に対して、世界で初めてゲノムワイド関連解析を実施したことを報告しました。
非結核性抗酸菌(NTM)は、肺に感染し、慢性呼吸器感染症を引き起こします。南宮湖専任講師らは、肺非結核性抗酸菌症(肺NTM症)が、近年急増しており、公衆衛生上、重要な感染症であることを報告してきました。また、肺NTM症を根治する有効な治療法はほとんどなく、肺NTM症について更なる研究および対策の必要性が指摘されていました。NTMは約200種類以上の菌種から構成され、その中でもMAC菌は感染症を引き起こす頻度が最も高く、日本では肺NTM症の内、肺MAC症が約9割を占めています。
MAC菌を含めNTMは水や土壌等の環境中に常在する弱毒菌であるにも関わらず、主に中高年以降の痩せ型の女性等に好発することから、疾患感受性遺伝子の存在が示唆されていました。今回、南宮湖専任講師らの研究グループは、世界で初めて、肺MAC症患者と対照者との遺伝子型を網羅的に比較するゲノムワイド関連解析を実施し、細胞内外のイオンやpHの調整に重要な役割を担うCalcineurin B homologous protein2(CHP2)領域の遺伝的変異が強く発症リスクと高い関連性を示すことを確認しました。さらに、韓国サムスンメディカルセンターや米国国立衛生研究所との国際共同研究により、この遺伝的変異が日本人集団のみならず、韓国人集団やヨーロッパ人集団においても関連していることを示しました。これまで不明であった肺MAC症の疾患感受性遺伝子の一部を明らかにすることにより、新たな治療戦略の開発および臨床現場における遺伝子型に基づく個別化医療にも役立つことが期待されます。
本研究成果は、2021年2月4日に『European Respiratory Journal』にオンライン掲載されました。