理化学研究所(理研)脳神経科学研究センター時空間認知神経生理学研究チームの藤澤茂義チームリーダー、新保彰大研究員、慶應義塾大学文学部の伊澤栄一教授の共同研究チームは、ラットを用いて、脳の海馬の神経回路が時間情報を相対的に表現していることを発見しました。
本研究成果は、動物やヒトにおける時間認識の神経基盤の解明だけでなく、経験した出来事に関する記憶であるエピソード記憶の神経基盤の理解に貢献すると期待できます。
近年、空間の認識の中心である海馬において、数秒の時間に応答して発火する「時間細胞」という細胞群が発見されました。しかし、時間細胞がどのような時間情報に対して応答しているかは明らかではありませんでした。
今回、共同研究チームは、ラットに時間計測を必要とする課題を学習させ、海馬から神経活動を記録したところ、海馬の神経細胞群は、時間計測開始から特定の秒数に応答するという絶対的な経過時間を表現しているのではなく、計測時間全体における特定の経過時間の割合、つまり相対的な経過時間に応答していることが分かりました。さらに、これらの細胞群がこれまで報告されていた空間情報に応答する海馬の細胞群と同じ神経生理学的特徴を持つことも発見しました。これらの結果は、海馬の細胞群が空間情報と時間情報を同じメカニズムを用いて表現していることを示唆しており、「いつ、どこで、何を」を統合したエピソード記憶の神経基盤を理解する上で重要だと考えられます。
本研究は、科学雑誌『Science Advances』(2月3日付:日本時間2月4日)に掲載されます。