慶應義塾大学医学部生理学教室の渡部博貴特任講師と岡野栄之教授らを中心とする研究グループは、ヒトiPS細胞由来の神経細胞を用いて、アルツハイマー病発症の原因とされている脳内の「ゴミ」を生み出す装置にはいくつかのサブタイプが存在することを発見しました。
アルツハイマー病の患者脳内には、アミロイドβ(Aβ)から成る異常な凝集体の「ゴミ」が蓄積していることが知られており、これが病気の発症に寄与していると考えられています。本研究グループは、Aβを産生するγ-セクレターゼ複合体を構成する触媒サブユニット・プレセニリン(PS)には2つの型(PS1及びPS2)が存在することに着目し、ゲノム編集技術を用いて各々の触媒サブユニットあるいは両方を欠失させたヒト神経細胞モデルの開発に世界で初めて成功しました。
これらのヒト神経細胞から産生されたAβを検討したところ、PS2を持つγ-セクレターゼ複合体からは、Aβの中でも毒性の強い種類が産生されていることが示されました。さらに、特異的な免疫細胞染色によって、PS2を持つγ-セクレターゼ複合体は主に後期エンドソームに局在していることがわかりました。これらのことから、γ-セクレターゼ複合体の触媒サブユニットの種類および神経細胞内での局在部位により、Aβの産生能の差異が生じうることが明らかになりました。
今回の研究成果は、ヒト神経細胞モデルを用いてAβ産生装置の多様性を示すことに成功したものであり、より毒性の高いAβを産生しうるγ-セクレターゼ複合体サブタイプのみを標的とした創薬が期待されます。
本研究成果は『eNeuro』オンライン版で2021年2月19日(米国東部時間)に公開されました。