慶應義塾大学大学院理工学研究科基礎理工学専攻修士2年若井舞希、岡浩太郎教授、堀田耕司准教授らは、環境の変化を体内のカルシウムイオンに伝えることでホヤは大人になることを明らかにしました。カルシウムイオンはセカンドメッセンジャーとして生命現象の様々なシグナル伝達に関わっています。この研究ではホヤが大人へと変態する過程の体内カルシウムイオン濃度の時空間変化を可視化し、変態を誘導する体内分子のメカニズムを調べました。
海洋生物の多くは浮遊性の幼生から岩場などに固着する大人になるために変態します。変態は光、化学物質、機械刺激など、様々な環境からのシグナルが引き金になるといわれていますが、これらの刺激がどのように体内へ伝えられ変態するのか分かっていませんでした。
ホヤにおいてもオタマジャクシ型幼生の先端に位置する「付着器」とよばれる感覚器官を介して付着し、この付着により変態は引き起こされます。付着器は環境からの刺激を変態の合図として体内に伝えていると考えられますが、動き回る幼生の体内で生じる現象を捉えるのは難しく、どのように変態シグナルを伝えているかはわかっていませんでした。本研究グループは幼生の付着時間と場所を制御することで変態を自在に誘導し、世界で初めて変態時のホヤ幼生のカルシウム動態を観察することに成功しました。その結果、付着器への一定時間以上の機械刺激が変態のスイッチとなり、変態開始の合図をカルシウムイオン濃度の変化として体内の様々な器官へ伝えていることがわかりました。
付着から変態までの一連のメカニズムは未だ不明点が多く、本研究成果は海洋生物の変態メカニズムの理解に大きく貢献し、水産養殖や漁業被害、生物多様性の維持などの問題解決に役立つと期待されます。研究成果は、2021年2月17日(英国時間)に英国科学誌『Proceedings of the Royal Society B』にオンライン掲載されました。