慶應義塾大学大学院理工学研究科の赤星太一(博士3年)、同大学理工学部の内海円花(学部4年)、岡浩太郎教授、堀田耕司准教授らは、甲南大学理工学部・統合ニューロバイオロジー研究所の日下部岳広教授、大沼耕平(博士研究員)、村上誠(学部卒業生)、および筑波大学生命環境系下田臨海実験センターの堀江健生助教らとの共同研究で、ホヤの発生初期のリズミカルな自発運動はわずか1対の運動神経細胞により制御されることを明らかにしました。魚類・両生類などの脊椎動物の胚は遊泳前の発生の早い段階で自発運動がみられます。この自発運動は脊髄にある神経細胞群のリズミカルな神経活動により生じることが示唆されていますが、いつ、どのようにして獲得されるのかは謎でした。本研究では脊椎動物に最も近縁であり、細胞系譜や幼生期における神経接続情報がわかっているカタユウレイボヤを用いこの謎に挑戦しました。その結果、カタユウレイボヤ幼生の脊髄に相当する領域で1対の運動神経細胞MN2が数十秒周期の初期の運動リズムを生み出すのに必要十分であり、MN2の膜電位変化が尾の筋収縮に対応するようになることを世界で初めて明らかにしました。運動神経細胞MN2は遊泳期において左右交互に尾を振る運動をうみだす神経回路(中枢パターン生成器, CPG)の重要な構成因子であると考えられ、本研究成果は動物が一般にもつ遊泳や歩行などの自律的でリズミカルな運動をうみだす神経回路の発生の解明に寄与する重要な発見といえます。研究成果は、2021年12月10日(米国東部時間)に『Science Advances』にオンライン掲載されました。