慶應義塾大学薬学部と国立がん研究センター中央病院の研究グループは、治療開始時の併用薬と好中球/リンパ球数比を組み合わせた指標を用いることで、免疫チェックポイント阻害薬治療の予後を事前に予測できることを発見しました。本研究は慶應義塾大学薬学部薬学科6年の荻原利章(おぎわら としき)、同薬学部の河添 仁(かわぞえ ひとし)専任講師、中村智徳(なかむら とものり)教授および国立がん研究センター中央病院を中心とする研究グループの成果です。
現在、国民の2人に1人はがんに罹患し、3人に1人はがんで死亡する超高齢化社会となりました。がんの中でも肺がんの死亡者数は第1位であり、年間約7.5万人が亡くなられています。免疫チェックポイント阻害薬であるニボルマブやペムブロリズマブは切除不能進行・再発の非小細胞肺がんにおける標準治療です。一方で、免疫チェックポイント阻害薬治療の奏効率には個人差があるため、有効性が低い患者を予測する指標は大いに役立ちます。現在まで、併用薬と予後の関連性や好中球/リンパ球数比と予後の関連性が報告されているものの、それらを組み合わせた検討は行われていませんでした。
本研究では、国立がん研究センター中央病院において、切除不能進行・再発の非小細胞肺がんの治療として、ニボルマブまたはペムブロリズマブ療法を行った患者を対象に、診療録を後ろ向きに調査しました。上記の指標を用いて患者を高・中間・低リスク群に分類したところ、対象患者259名のうち、104名(40.2%)が高リスク患者群に分類されました。統計解析の結果、高リスク患者群は低リスク患者群と比較して、全生存期間が短いことがわかりました。一方、無増悪生存期間については有意な関連は見られませんでした。
以上のことから、切除不能進行・再発の非小細胞肺がん治療開始時の併用薬と好中球/リンパ球数比を組み合わせた指標を用いることで、ニボルマブまたはペムブロリズマブ療法治療の予後を予測できることが示唆されました。本研究成果は、免疫チェックポイント阻害薬治療の予後を事前に察知できる可能性を示唆するものであり、「高リスク患者」の早期発見とその治療に繋がるものと考えております。今後、これらメカニズムの解明と免疫チェックポイント阻害薬治療の有効性を改善するための新たな手法の開発が期待されます。
本研究成果は、2021年11月8日に国際学術誌『Frontiers in Oncology』(電子版)に掲載されました。