慶應義塾大学理工学部の中嶋敦教授、渋田昌弘特任准教授(研究当時。現・大阪市立大学特任講師)は、銀原子数を精密に峻別したナノクラスターを蒸着した固体表面からの光電子放出過程を用いて、プラズモン応答の最小単位が9原子であることを明らかにしました。
近年、光エネルギー活用や光通信技術は、二酸化炭素を出さないエネルギー資源の開発やさらなる高速通信の上で重要であることから、ナノテクノロジーと組み合わせた研究開発が盛んに行われています。光を金や銀などの貴金属粒子に照射すると局在表面プラズモン共鳴(LSPR)に基づく光学過程が生起され、その光学現象は古代ローマのリュクルゴス(Lycurgus)の聖杯はもとより、ステンドグラスやベネチアングラス、江戸切子などのガラスの着色に広く用いられてきました。近年では、太陽電池などの光電変換デバイスやプラズモニック光回路などのフォトニックナノデバイスを高効率化するといった観点から応用が期待されています。このLSPRの最小単位を明らかにすることは、プラズモン応答の根本的な理解を与え、光電変換において光吸収に引き続く電荷分離過程を精密制御する上で極めて重要であることから、LSPRの起源の特定は強く望まれていました。
本研究グループでは、LSPRの物理特性の評価を銀ナノクラスターの精密合成とともに、2光子光電子分光法を用いて行いました。その結果、固体表面に、原子数を1個単位で精密に峻別した銀ナノクラスターを蒸着することで、9原子以上の銀ナノクラスターがプラズモン応答することを突き止めました。また、プラズモンによる光吸収をした銀ナノクラスターで生成する励起電子は、ナノクラスター内部で極めて緩和しやすいことを明らかにしました。これらの結果は、プラズモン応答を用いたデバイス応用の基盤技術として利用価値が高いと考えられます。本研究成果は、2021年1月7日(米国時間)にアメリカ化学会の学術誌「ACS Nano」で公開されました。