慶應義塾大学医学部生理学教室の岡野栄之教授、同整形外科学教室の中村雅也教授、梶川慶太(大学院医学研究科博士課程4年生)、同生理学教室の今泉研人特任助教らを中心としたグループは、ヒトiPS細胞から独自の技術を用いて脊髄の領域情報を持つ「脊髄型」神経幹/前駆細胞を作成し、亜急性期の脊髄損傷モデルマウスに対して移植することで、運動機能を回復させることに成功しました。
これまで、本研究グループでは、ヒトiPS細胞由来神経幹/前駆細胞を亜急性期の脊髄損傷に対して移植し、有効性を報告してきましたが、今回、神経幹/前駆細胞の持つ領域情報に注目して詳細な検討を行いました。本研究グループが開発した新しい技術を用いることで、脊髄型と、脊髄型とは異なる領域である前脳型の二つの神経幹/前駆細胞を移植して比較を行いました。その結果、前脳型を移植した群では運動機能回復が得られにくかった一方で、脊髄型では機能改善を得ることができました。さらに脊髄型の神経幹/前駆細胞を移植した群においては、損傷した脊髄との神経回路構築を確認することができました。
今回の研究成果により、ヒトiPS細胞由来神経幹/前駆細胞の移植には脊髄型の細胞が優れていることが明らかになりました。今後、本研究成果をもとに、脊髄型の性質を持つ安全な神経幹/前駆細胞の誘導法の開発が期待されます。
本研究成果は、2020年9月3日(米国東部時間)に、『Molecular Brain』のオンライン版に掲載されました。