慶應義塾大学医学部坂口光洋記念講座(システム医学)の秋山智彦専任講師、洪実教授と武田薬品工業株式会社ニューロサイエンス創薬ユニットの岩田英久主席研究員らは共同で、iPS細胞から神経細胞を迅速かつ高純度に作製する技術を用い、パーキンソン病の誘因物質を早期検出することに成功しました。
パーキンソン病の発症には、神経細胞におけるαシヌクレインの凝集化が深く関与しますが、根本的な原因はよくわかっていません。先天性代謝異常疾患であるゴーシェ病の患者ではパーキンソン病の発症率が高いことから、代謝系の異常、特に糖脂質の蓄積がシヌクレイン異常を引き起こす原因の一つであると考えられています。
これらの病態解明には疾患iPS細胞の活用が有効なアプローチですが、神経細胞の作製には通常1カ月以上かかるという時間的制約がありました。今回の研究では、合成mRNA分化誘導法という神経細胞を1週間で作製できる方法を用いて、ゴーシェ病患者由来のiPS細胞から神経細胞を迅速に作製しました。その結果、分化開始後わずか10日の時点で糖脂質の蓄積やαシヌクレインのリン酸化といったパーキンソン病にかかわる表現型を検出することに成功しました。さらに、糖脂質の蓄積を阻害することによりαシヌクレインのリン酸化を抑えることができ、病態機構の一端を解明しました。
従来の分化誘導方法では、表現型の検出に2カ月以上かかることから、本成果はスピードの向上が求められる創薬開発への応用が期待されます。
本研究の成果は、2020年12月20日(米国東部時間)に、米国科学誌『STEM CELLS Translational Medicine』のオンライン版に公開されました。