血管とリンパ管は、別々のネットワークを全身に張り巡らせ、それぞれ独自の機能を発揮します。両者は、最終合流地点である頸部の静脈角まで一切接続すること無く、各々が独立したネットワークを形成します。しかしながら、血管とリンパ管、特に静脈とリンパ管の特徴・構造はほとんど見分けがつかないほど酷似しており、両者がお互いをどのように見分け、独立性を担保しているのかは、古くからの疑問として残されてきました。
慶應義塾大学医学部解剖学教室の田井育江専任講師、久保田義顕教授らは、同内科学(循環器)教室、同外科学(一般・消化器)教室、同形成外科学教室、同先端医科学研究所、横浜市立大学、熊本大学、米国NIHなどとの共同研究で明らかにしました。
今回、多発性肺嚢胞、腎がん、線維毛包種などを典型的症状とするBirt-Hogg-Dube(BHD)症候群の原因遺伝子として知られるフォリクリン(Flcn)に関し、これを血管内皮細胞で欠失させると、血管のところどころで「リンパ管もどき静脈内皮細胞」が生じ、血管がリンパ管を接続すべき対象と誤認識してしまうことを見出しました。
今回の結果は、がんの外科治療などの後遺症として起こるリンパ浮腫に対する治療への発展の可能性を秘めます。リンパ浮腫においては、リンパ節郭清の結果、リンパの還流機能が低下し上肢・下肢に深刻な浮腫(むくみ)が生じますが、Flcnのシグナル経路に介入することで、局所で薬剤的に静脈-リンパ管シャントを創出できれば、リンパ浮腫の画期的治療になると考えます。
本研究成果は2020年12月9日(米国東部時間)の『Nature Communications』オンライン版に掲載されました。