慶應義塾大学医学部眼科学教室の坪田一男教授、小沢洋子特任准教授(聖路加国際大学研究教授併任)、永井紀博講師、同生理学教室の岡野栄之教授らを中心としたグループは、高脂肪食を継続摂取させて作製した加齢黄斑変性モデルマウスに対し、高血圧治療にも用いられているアンジオテンシンII 1型受容体拮抗剤(Angiotensin II type 1 receptor blocker; ARB)を投与し、病態の進行予防・視機能回復に成功しました。
加齢黄斑変性は日本の失明原因の第4位です。長年の炎症と酸化ストレスの蓄積により発症するため、日ごろからリスク要因とされる高脂肪食の過剰な摂取や喫煙を控え、予防することが重要です。今回の研究では、高脂肪食を食べ続けると、炎症性細胞であるマクロファージに脂質(コレステロールを含む酸化low-density lipoprotein; 酸化LDL)が蓄積し、活性化したマクロファージが網膜局所に集積して炎症を引き起こし、網膜色素上皮を変性させて視機能の低下をきたすことを示しました。さらに、それらはすべてARBの連日投与で回復し得ることを示しました。また、高脂肪食によるマクロファージの脂質蓄積は、脂質負荷による刺激で一連の分子発現が抑制され、コレステロール排出に必要なトランスポーターであるABCA1の発現が低下するためであり、ARBはその上流のシグナルを回復させることでABCA1の発現維持に作用することを示しました。
今回の研究成果により、加齢黄斑変性の進行予防にARBが効果を持つ可能性を示しました。今後はこれをもとに、高脂肪食を嗜好する現代人において加齢黄斑変性を予防する新規予防治療法が開発されることが期待されます。
本研究成果は、2020年12月9日(英国時間)に、『Communications Biology』のオンライン版に掲載されました。