慶應義塾大学医学部産婦人科学(婦人科)教室の木須伊織特任助教、阪埜浩司准教授、青木大輔教授、同外科学(一般・消化器)教室の尾原秀明准教授、東海大学医学部医学科基礎医学系分子生命科学の椎名隆教授、滋賀医科大学病理学講座疾患制御病態学部門の伊藤靖教授、滋賀医科大学動物生命科学研究センター土屋英明博士、株式会社イナリサーチの中川賢司代表取締役社長らを中心とした研究グループは、カニクイザルを用いて子宮移植を行い、非ヒト霊長類動物において世界で初めて子宮移植後の出産に成功しました。
生まれつき子宮がない、もしくは何らかの原因で子宮を失った20~30代の子宮性不妊症の女性は国内で約6万人存在します。それらの女性は、自らのお腹で妊娠、出産することが不可能でしたが、2000年頃より子宮を移植することで妊娠出産を目指す子宮移植研究が行われ始めました。これまでラットやヒツジなどの動物での子宮移植後の出産は報告されていたものの、ヒトに解剖生理学的に近い非ヒト霊長類動物を用いた子宮移植後の出産は報告されていませんでした。
今回、研究グループは、MHC(Major Histocompatibility Complex; 主要組織適合性複合体)を統御したカニクイザルを用いて、母娘間での子宮移植を想定した動物実験モデルを作製し、その後、非ヒト霊長類の子宮移植例としては世界で初めて妊娠、出産に成功しました。
非ヒト霊長類動物での検証は新しい技術の臨床応用を視野に入れた前臨床試験として大変有用ですが、カニクイザルはヒトと比べて非常に小さく、術後管理も難しいことから、子宮移植モデルの作製は困難であると考えられていました。今回、研究グループによるカニクイザルでの子宮移植の成功により、この動物での子宮移植が技術的に可能であることが証明され、さらに、そのモデル作製は子宮移植に関わる医学的課題の解明にもつながる大きな成果であると言えます。研究グループは、今後、国内初の子宮移植の臨床応用を目指しており、これまで妊娠出産が不可能とされていた子宮性不妊女性に福音をもたらすことが大いに期待されます。
本研究成果は、2020年11月18日(日本時間)に、国際医学雑誌『Journal of Clinical Medicine』に掲載されました。