慶應義塾大学大学院理工学研究科の山際可奈(2018年修士課程修了)、理工学部の中嶋敦教授、渋田昌弘特任准教授(研究当時。現・大阪市立大学特任講師)は、銀原子数十個からなるナノクラスターのプラズモン応答を用いると、従来では観測できない物質表面の下(「埋れた界面」)で引き起こされる波のエネルギー伝播を観測できることを明らかにしました。
近年、光通信技術や光エネルギー活用は、高速通信やエネルギー資源開発の上で重要であることから、ナノテクノロジーと組み合わせた研究開発が盛んに行われています。光を金属表面に照射すると表面プラズモンポラリトン(SPP)が生成し、その伝播する現象はプラズモニック光回路やプラズモニックレーザーなどのフォトニックナノデバイスや太陽電池などの光電変換デバイスを高効率化するといった観点から応用が期待されています。このSPPの伝搬が時間とともに変化する様子を可視化することは、伝播効率の向上とともにSPPの速度や空間広がりを精密制御する上で極めて重要であることから、SPPを可視化する手法の開発が強く望まれていました。
本研究グループでは、SPPの可視化と物理特性の評価を光電子放射顕微鏡(PEEM)を用いて行いました。とりわけ可視化が難しいとされる、金属表面が分子膜で覆われた界面で伝播するSPPをPEEMで観測する手法の開発に取り組みました。その結果、最表面に銀ナノクラスターを増感剤としてわずかに蒸着することで、従来観測できなかった分子膜の下の「埋れた界面」のSPPを可視化することに成功しました。これらの結果は、プラズモン応答を用いたデバイス応用の基盤技術として利用価値が高いと考えられます。本研究成果は、2020年1月30日(米国時間)にアメリカ化学会の学術誌「ACS Nano」で公開されました。
プレスリリース全文は、以下をご覧下さい。