慶應義塾大学医学部皮膚科学教室の久保亮治(くぼあきはる)准教授、国立成育医療研究センター周産期病態研究部の中林一彦室長らの共同研究グループは、汗孔角化症(かんこうかっかしょう)という皮膚病になる生まれつきの素因を、日本人の400人に1人が持っていることを明らかにしました。さらに、そのような人では、紫外線などにより後天的に皮膚の細胞のゲノムが変化すると、汗孔角化症の症状が全身の皮膚に多発することが分かりました。
汗孔角化症は、直径数mm~数cmの大きさで、赤や茶色の、円形または環状の形をした、平たく少しだけ盛り上がったできもの(皮疹)が、全身の皮膚に多発する病気です。皮疹からは皮膚癌ができやすいことが知られています。子どもの身体の一部分の皮膚に集中して皮疹ができる「線状汗孔角化症」と、大人になってから腕や足を中心に全身に皮疹ができる「播種状表在性光線性汗孔角化症」などがあります。
汗孔角化症を発症する人は、MVDやMVKなどの遺伝子に、生まれつきの変化(遺伝子変異)を1つ持っていることが分かっていました。ヒトの細胞は遺伝子を2つずつ持っているので、遺伝子の片方が変化して働かなくても、もう片方がスペアとして働き、通常は何も問題は起きません。なぜ、遺伝子の片方だけに変化を持つ人が汗孔角化症を発症するのか、その仕組みはこれまで全く分かっていませんでした。
今回の研究から、(1)日本人のおよそ400人に1人は、MVDという遺伝子に生まれつきの変化があり、汗孔角化症になる素因を持つこと、(2)ゲノムに生じた後天的な変化(以下、セカンドヒット)によって、MVDという遺伝子が2つとも働かなくなった細胞が、汗孔角化症の皮疹を作ること、(3)セカンドヒットが胎児期に一度だけ生じると「線状汗孔角化症」になり、大人の皮膚のあちらこちらで何度も生じると、「播種状表在性光線性汗孔角化症」になることが分かりました。
今回の研究成果は、汗孔角化症から皮膚癌になるメカニズムの解明や、汗孔角化症の予防法・治療法の開発につながることが期待されます。
本研究成果は、2019年8月26日(グリニッジ標準時)に米国研究皮膚科学会の学術誌『Journal of Investigative Dermatology』(オンライン版)に掲載されました。
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