慶應義塾大学薬学部は国立国際医療研究センター(略称:NCGM)との共同研究により、腸管の健康維持に重要な抗原特異的な免疫応答が、絶食によって消失する仕組みを発見しました。これは慶應義塾大学薬学部の永井基慈(博士課程学生)、長谷耕二教授、土肥多惠子客員教授、NCGM肝炎・免疫研究センター 消化器病態生理研究室の河村由紀室長を中心とする研究グループの成果です。
世界には、必要最低限の栄養の確保が困難な絶対的貧困に位置する人が約7億人おり、国際的な問題となっています。さらに、紛争や飢饉によって低栄養状態にある子供は感染症にかかりやすく、ワクチンにより得られる効果が低いことも報告されています。ワクチンの効果には免疫系における記憶(免疫記憶)が定着するかどうかが鍵を握ります。これまで、栄養が免疫系の機能に影響を与えることは知られていましたが、栄養が遮断された絶食状態における免疫系の変化についてはほとんど解明されていませんでした。今回研究グループは、一時的に絶食を施した際に、腸管のパイエル板において免疫記憶の形成に重要な胚中心B細胞が細胞死を起こすことを発見しました。一方で、活性化前のナイーブB細胞は絶食時に骨髄へと一時的に退避し、再摂食後には速やかにパイエル板に帰還することを明らかにしました。そのため、経口ワクチン投与後に絶食-再摂食を行うと、活性化した胚中心B細胞のみが消失し、経口ワクチンの効果が著しく減少することが分かりました。
本研究は、飢餓に対して免疫系が適応する仕組みの一端を明らかにしたとともに、栄養シグナルによって免疫応答の制御が可能であることを示唆するものです。今後の研究の発展により、食事介入による効果的なワクチン接種方法の開発へつながることが期待されます。本研究成果は、2019年8月22日(米国東部時間)に国際学術誌『Cell』に掲載されました。
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