慶應義塾大学医学部坂口光洋記念講座(オルガノイド医学)の佐藤俊朗教授らの研究グループは、潰瘍性大腸炎の大腸組織において、特定の遺伝子変異が蓄積していることを発見しました。
ヒトの正常な大腸上皮は、加齢とともに遺伝子変異が蓄積し、大腸の発がんの原因となることがわかっています。また、食事の質や慢性炎症などのさまざまな腸内環境の変化によっても大腸の発がんリスクが高くなります。しかし、腸内環境の変化が大腸上皮の遺伝子変異の蓄積に影響を与えるかどうかは不明のままでした。
本研究では患者から得られた大腸上皮を培養し、大腸上皮細胞を増やすことによって効率的に遺伝子変異の解析を行いました。その結果、罹病期間が長い潰瘍性大腸炎の患者の大腸上皮細胞には、健常人の大腸上皮に比べて、より多くの遺伝子変異が検出されました。こうした遺伝子変異の多くは、大腸がんに認められる遺伝子変異ではなく、慢性炎症に関連した遺伝子変異であることがわかりました。
さらに、オルガノイドと呼ばれる培養皿の上で臓器を培養する技術によって、これらの遺伝子変異の役割を突き止めました。
潰瘍性大腸炎ではIL-17(インターロイキン17)と呼ばれる慢性炎症シグナルが活性化しており、その刺激は大腸上皮を傷害しますが、潰瘍性大腸炎の大腸上皮は、健常人では生じないIL-17に関連した遺伝子変異を獲得し、慢性炎症による細胞傷害から免れることが分かりました。つまり、潰瘍性大腸炎の患者の大腸では、炎症環境で生存しやすい遺伝子変異の上皮細胞が選択的に増え、正常な大腸上皮細胞を置き換えていくことが明らかになりました。
ヒトの大腸は遺伝子変異を蓄積することによって大腸がんを発生することが既に報告されていますが(Fearon ER, et al. Cell 1990.)本研究により、慢性炎症などの腸内環境の変化に適応するための変異も蓄積していくことが判明しました。
遺伝子変異が生じた大腸上皮細胞の蓄積が潰瘍性大腸炎の病態やがん化にどのような影響を及ぼすか、今後の研究が期待されます。
この研究成果は、2019年12月18日(英国時間)に英科学誌『Nature』のオンライン版に掲載されました。
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