理化学研究所(理研)生命医科学研究センター統計解析研究チームの鎌谷洋一郎チームリーダー、大阪大学大学院医学系研究科遺伝統計学の岡田随象教授、慶應義塾大学医学部百寿総合研究センターの広瀬信義特別招聘教授、同臨床遺伝学センターの小崎健次郎教授らの共同研究グループは、日本人集団2,200人の全ゲノムシークエンス解析を行い、日本人集団の適応進化に関わる遺伝子領域を同定しました。
生物の性質が、世代を経るごとに周囲の環境に対応して変化する現象を、適応進化と呼びます。適応進化の過程では、生物の設計図であるゲノム配列の多様性に変化が生じます。そのため、ヒト集団におけるゲノム配列の多様性を調べることで、ゲノム配列上のどの遺伝子領域が環境の変化に適応し、その集団が遺伝学的に進化してきたかを知ることができます。
今回、共同研究グループは、バイオバンク・ジャパンおよび慶應義塾大学医学部百寿総合研究センターにより収集された日本人集団2,200名を対象に、ゲノム配列情報に基づく適応進化の解析を行いました。全ゲノムシークエンス解析を行い、集団中に低頻度で存在する遺伝的変異の分布を検討することで、過去数千年間において適応進化の対象となっていた四つの遺伝子領域を同定しました。また、これらの遺伝的変異は日本国内の各地域(特に沖縄地方)で異なる頻度を持つことが明らかになりました。
さらに、日本人集団において知られている、病気の発症や臨床検査値に影響を与える遺伝的変異において、適応進化の強さを調べたところ、飲酒量などアルコール代謝と、脂質や血糖値、尿酸値など栄養代謝に関わる形質に影響を与えている遺伝的変異が、日本人集団の適応進化の主な対象となっていたことが分かりました。これは、他の人類集団とは異なる結果であり、日本人集団に特有の適応進化が存在したことを示唆する結果です。
本成果は今後、日本人の歴史の解明や、遺伝的背景を考慮した健康の増進に寄与すると考えられます。また、より大規模な全ゲノムシークエンスデータが構築されることで、さらなる適応進化の解明が期待できます。
本研究成果は、英国のオンライン科学雑誌『Nature Communications』(4月24日付け)に掲載されました。
本研究における全ゲノムシークエンス情報は、科学技術振興機構(JST)バイオサイエンスデータベースセンター(NBDC)および、理化学研究所生命医科学研究センター統計解析研究チームが構築した日本人集団ゲノム関連解析情報データベース「Jenger」を通じて公開されます。
本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)の「オーダーメイド医療の実現プログラム」の支援のもと行われました。
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