慶應義塾大学理工学部の安紅雨訪問研究員(日本学術振興会 外国人特別研究員)、安藤和也准教授らの研究グループは、東北大学材料科学高等研究所の大野武雄准教授らと共同で、次世代の電子技術として期待されているスピントロニクス素子を、絶縁体により動作させる新原理を明らかにしました。
電子のスピンを利用することで、電子デバイスを高速化・低消費電力化する電子技術「スピントロニクス」では、磁性体(磁石)の磁化(N極/S極)をいかに制御するかが鍵となります。最近では、磁化を制御するために、デバイス内のスピン軌道相互作用を利用した手法が注目されており、この作用で生まれるトルク(スピン軌道トルク)を用いることで、高速かつ低消費電力な素子駆動が可能です。しかし、スピン軌道トルクを生み出すためには、磁性体に接合された金属に電流を流す必要があるというのがこれまでの常識であり、金属に電流が流れることで発生するエネルギー損失を避ける唯一の方法は、表面のみが金属性を有するトポロジカル絶縁体を利用することでした。
今回、本共同研究グループは、金属を酸化させることで電流を流さなくなった金属酸化物絶縁体を用いても、スピントロニクス素子を駆動可能であることを世界で初めて明らかにしました。この発見により、スピントロニクス素子に流れた電流によって発生するエネルギー損失を極限まで抑えた低消費電力素子を実現する新たな道が開けました。今後、今回明らかとなった新現象に関する基礎研究が進み、超高速・低消費電力のデバイスの開発、およびそれを用いた省エネルギー社会の実現への道が開けることが期待されます。
本研究成果は2018年2月23日(現地時間)に米国科学誌「Science Advances」に掲載されました。
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