このたび、慶應義塾大学医学部坂口光洋記念講座(オルガノイド医学)の佐藤俊朗教授らの研究グループは、実際のヒトの腸管上皮組織に類似した「ミニ組織」、ヒト腸管上皮オルガノイドを永続的に培養する新規培養技術を開発しました。ヒトの腸管上皮には水分や栄養分の吸収、粘液の分泌やホルモンの産生を担うさまざまな分化細胞が存在します。佐藤教授らは2012年にヒトの腸管上皮細胞を体外で永続的に三次元培養する手法を確立しましたが(Sato T, et al. Gastroenterology 2012)、この手法では、用いられる増殖因子が分化を阻害するため、生体でみられる幹細胞から分化細胞が生じ上皮組織に供給され続ける現象をオルガノイドで再現することはできませんでした。そこで、本研究では、培養に用いる増殖因子を見直し、従来用いていた因子をヒト腸管組織で機能するIGF-1とFGF-2という2つの因子で置き換えることで、より生体内に近い環境を培養液に再現しました。この新規手法を用いることにより、分化細胞が供給され続ける生体に類似したオルガノイドを効率的に作成することができるようになりました。
本研究成果によって、より本来の組織に近いヒトの腸上皮組織を体外で構築することが可能となります。今後この新規培養技術が普及することで、従来、臨床試験や動物モデルを用いた研究で行っていた薬剤試験などを培養皿上で簡便にかつ高い精度で行えるようになることが期待されます。
本研究成果は、2018年 12月7日午前1時(日本時間)米国科学誌『Cell Stem Cell』オンライン版に掲載されました。
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