慶應義塾大学医学部内科学(消化器)教室の金井隆典教授、筋野智久特任講師、清原裕貴助教らの研究グループは、乾癬の発症が腸内細菌叢(注1)を変化させ、腸炎が悪化しやすい腸内環境が形成される「皮膚-腸相関」の存在をマウスによる実験で初めて明らかにしました。
乾癬(注2)と炎症性腸疾患(注3)は、それぞれ皮膚と消化管に慢性的な炎症が起こる自己免疫性疾患の一種で、いずれも国内における患者数は増加傾向にあります。両疾患は発症する臓器や疾患のメカニズムが異なりますが、片方に罹患していると他方を発症するリスクが上昇することが知られています。しかし、なぜ両疾患が合併しやすくなるのかはこれまで明らかにされていませんでした。また、乾癬患者と炎症性腸疾患患者の腸内細菌叢は健常人のものと構成が異なり、その一部は両疾患で類似することが知られていますが、皮膚と消化管の炎症がそれぞれ互いの臓器にどのような影響を与えるのかについては分かっていませんでした。
本研究グループは、乾癬と腸炎のモデルマウスを用いて、乾癬の発症が消化管にどのような環境の変化をもたらすのか、そして消化管の環境の変化が腸炎の発症にどのような影響を与えるのかを解明しました。本研究は、乾癬の発症が大腸粘膜に存在する免疫細胞の構成や機能に変化を起こし、加えて腸内細菌の構成を変化させることを明らかにしました。さらに、そのような腸内環境の変化によって大腸炎が悪化し、中でも腸内細菌叢の変化が大腸炎の悪化に必須であることを実証しました。
本研究により、乾癬患者が炎症性腸疾患を合併しやすいこと、それらの疾患に共通した腸内細菌叢の変化が見られることの根底にあるメカニズムが、皮膚炎の存在によって消化管に炎症を惹起しやすい腸内環境が形成される「皮膚-腸相関」という概念により初めて解明されました。本研究は、今後臨床研究を経て、乾癬に罹患する患者さんの炎症性腸疾患発症や病態の進展を予防する新たな治療戦略の開発につながることが期待されます。
本研究成果は、2018年9月24日(米国東部時間)米国消化器病学会雑誌『Cellular and Molecular Gastroenterology and Hepatology』に掲載されました。
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