慶應義塾大学医学部の吉村昭彦教授らと武田薬品工業のグループは、AMED革新的先端研究開発支援事業の一環として、疲弊した免疫細胞(T細胞)を若返らせ再活性化する技術を開発し、より効果的ながん治療へ応用することに成功しました。
細胞移入療法は、がん患者の腫瘍組織などから分離したがんに特異的なT細胞を試験管内で大量に培養し、患者へ再び戻す療法です。しかしながら、がん組織に集積しているT細胞の多くは何度も刺激を受けることで疲弊状態に陥っています。また、長期間培養することでも疲弊状態になります。このような疲弊状態に陥ったT細胞を患者体内に戻しても、がん細胞を攻撃する力が弱く、十分な治療効果を得ることが出来ないという問題を抱えていました。
研究グループはがん特異的なT細胞にNotchと呼ばれる、ある特殊な刺激を入れることで、疲弊状態に陥ったT細胞を若返った状態、すなわち抗原にさらされて活性化される前の未感作に近い状態へと転換できることを見出しました。この細胞は幹細胞とメモリー(記憶)細胞の両方の性質を持ち、再度の刺激によって急速に増殖し、かつ長期生存が可能でした。また、ヒトT細胞からも作成することができ、強い抗腫瘍効果を発揮することを確認しました。研究グループは、この細胞を「誘導性ステムセルメモリーT細胞(iTSCM)」と命名しました。
今回の成果は、遺伝子導入技術を用いずに、がんに特異的に反応するT細胞を増やすことを可能にするもので、早期にがん治療へ応用できることが期待されます。また免疫細胞に限らず一般的な細胞の「若返り」の方法の開発とメカニズムの解明につながることも期待されます。
本研究成果は2017年5月22日(英国時間)に英科学雑誌「Nature Communications」のオンライン速報版に公開されました。
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