慶應義塾

脳内の「遊撃手」ミクログリアが、傷ついた神経細胞を包み込み保護する仕組みを解明

-アルツハイマー病をはじめとする神経疾患に対する新たな治療戦略の開発に期待-

公開日:2026.06.18
広報室

慶應義塾大学医学部

Iba1 Deficiency Impairs Microglial Synaptic Remodeling and Neuronal Survival After Axonal Injury

慶應義塾大学医学部内科学教室(神経)/慶應義塾大学病院 メモリーセンターの関口 耕史助教、伊東大介特任教授らの研究チームは、顔面神経切断による軸索損傷モデルを用いて、ミクログリアに広く発現するタンパク質 Iba1(AIF1)が、損傷後の神経細胞周囲のシナプス再編および運動ニューロンの生存に重要な役割を持つことを明らかにしました。

ミクログリアは、神経損傷、炎症、神経変性など(の脳内環境)の変化に素早く反応して患部に集積し、形態や遺伝子発現を変化させて脳を守る細胞です。例えば、神経損傷後、ミクログリアは運動ニューロンの細胞体周囲に集まり被覆し、シナプスをはぎとることが知られていました(シナプス・ストリッピング)。しかし、この過程がどのような分子機構に基づき、どのような生物学的意義を持つかについては十分にはわかっていませんでした。

本研究では、ミクログリアに広く発現しているIba1の欠損マウスと野生型マウスに顔面神経切断を行い、免疫組織化学、電子顕微鏡解析、単一核RNAシーケンスを組み合わせて、切断に伴って生じる(神経)軸索損傷後の顔面神経核におけるミクログリアと運動ニューロンの応答を解析しました。その結果、Iba1欠損マウスでは、損傷後のミクログリアによる運動ニューロン被覆や接触が低下し、野生型で認められるシナプス再編が不十分となり、後期には運動ニューロン生存率の低下とDNA損傷応答の亢進が認められました。

本成果は、Iba1が障害を受けた神経細胞とミクログリアの相互作用を制御し、神経細胞保護に関与することを示すものです。近年、アルツハイマー病では、Iba1陽性ミクログリアが老人斑の形成や除去に深く関与し、病態の進行に重要な役割を果たすことが明らかになっています。今後、Iba1の機能を制御し、ミクログリアの働きを適切に調整することで、アルツハイマー病をはじめとする神経疾患に対する新たな治療戦略の確立につながることが期待されます。

本研究成果は、2026年5月6日(UTC / GMT)に国際学術誌Journal of Neuroinflammation(オンライン版)に掲載されました。

プレスリリース全文は、以下をご覧下さい。

プレスリリース(PDF)