慶應義塾大学大学院理工学研究科の山本詠士特任助教、秋元琢磨特任准教授、および理工学部の泰岡顕治教授は、リーズ大学のアントレアス・C・カリ アカデミックフェローおよびオックスフォード大学のマーク・S・P・サンソム教授と共同で、生体膜表面を拡散する表在性膜タンパク質が、膜に含まれるホスファチジルイノシトールリン脂質(PIP)という特定の脂質分子との結合によって膜上に滞在するだけでなく、タンパク質の拡散性がPIPとの結合の強さに依存して時間変化することを発見しました。
細胞では、生体膜上で様々な種類のタンパク質や脂質分子が互いに作用し合うことで細胞の機能を維持するための情報を細胞の内外に伝達しています。このシグナル伝達機構がうまく働かなくなると、癌や糖尿病、神経疾患、免疫不全などの様々な疾患が引き起こされます。生体膜でのタンパク質の拡散現象は、相互作用する相手であるタンパク質を発見する上で重要であり、また、時空間的に複雑に変化する生体膜の影響を強く受けます。今回、分子スケールの大規模なシミュレーションを行い、表在性膜タンパク質の生体膜表面での拡散性の時間変化を調べたことにより、タンパク質の拡散性は、そのタンパク質と結合しているPIPの数に依存してゆらぎ、不均一な拡散をすることを発見しました。また、PIPはタンパク質が膜表面に滞在するためのアンカーとして働くだけでなく、結合相手であるタンパク質の拡散性を制御することによって生体膜でのタンパク質同士の相互作用も調整し、生体反応の効率化に寄与している可能性もこの成果は示唆しており、生物学的に新しい働きが明らかになりました。
本研究成果は2017年1月20日(現地時間)に米国科学誌「Science Advances」に掲載されました。
プレスリリース全文は、以下をご覧下さい。