カイラルエッジ状態と呼ばれる特殊な光状態を活用することで、一方向のみに光を伝送するトポロジカル光導波路を実現できることが知られています。この導波路は、作製時に生じる構造ゆらぎや欠陥などがあっても散乱や反射なく光を伝送できることから、光配線などに利用される光集積回路の高密度化、高機能化を可能にすると期待されています。しかし、このカイラルエッジ状態を活用したトポロジカル光導波路を、光集積回路の主な動作波長である光通信波長域において広い波長範囲で機能させることは難しいと考えられてきました。
東京大学先端科学技術研究センターの刘天際特任助教(研究当時)、岩本敏教授、慶應義塾大学の太田泰友准教授および公益財団法人電磁材料研究所の小林伸聖主席研究員、池田賢司主任研究員らの研究グループは、誘電率がゼロに近い値を示すENZと呼ばれる特性を持つ磁気光学材料(磁気光学効果を示す材料)を含むフォトニック結晶の構造に注目し、数値解析を行いました。その結果、ENZ特性を持つ磁気光学材料を用いることにより、過去の報告の1000倍以上の広い波長帯域で動作可能な広帯域トポロジカル導波路の実現が可能であることを明らかにしました。
この成果は、従来技術では実現が困難であった一方向性導波路など、トポロジーを活用した光集積デバイスの可能性を拓くものであり、集積光回路技術に基づく様々な応用において、その高効率化、高機能化に貢献することが期待されます。
本研究成果は、2022年4月27日(太平洋夏時間)に米国科学誌「ACS Photonics」のオンライン版に掲載されました。
本研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 CREST「トポロジカル集積光デバイスの創成」 (JPMJCR19T1)、科研費・基盤研究(S)(17H06138)、科研費・基盤研究(C) (17K06849、19K05300)、科研費・挑戦的研究(萌芽)(19K21959)および日本板硝子材料工学助成会の支援により実施されました。