武田薬品工業株式会社の野上真宏博士、慶應義塾大学医学部生理学教室の岡野栄之教授、新潟大学大学院医歯学総合研究科脳機能形態学分野の矢野真人准教授、東北大学大学院医学系研究科神経内科の青木正志教授らの共同研究チームは、産学連携共同研究の一環である武田薬品工業株式会社湘南インキュベーションラボプロジェクトにおいて、iBRN法と名付けた、iPS細胞由来神経細胞とスーパーコンピュータを駆使したベイジアンネットワーク解析手法を用いて、家族性筋萎縮性側索硬化症(ALS)を分子レベルで解析し、病態に重要なRNA発現のネットワークで中心的な役割を果たすハブ遺伝子群の発見に成功しました。
ALSは筋萎縮と筋力低下を主症状とした運動ニューロンが選択的に侵される神経変性疾患で、その病態進行は極めて早く、有効な治療法が少ない指定難病です。本研究グループは、健常者および家族性ALSの中でもFUS遺伝子に変異を持つ患者から得たiPS細胞由来運動ニューロンの分化段階を含む60種類の細胞のトランスクリプトーム情報を基に、ベイジアンネットワーク解析を実施し、病態に関与する3つのハブ遺伝子として、PRKDC、miR-125b-5p、TIMELESSを同定しました。さらに、これらの3遺伝子に関して、PRKDCの活性は、ALSの原因遺伝子であるFUS蛋白質の異常局在に関わる事、また、miR-125b-5p-TIMELESSの分子経路は、神経変性の分子病因であるDNA損傷を引き起こす事を、細胞モデルを用いて実証しました。以上、本研究により確立したiBRN法は、神経変性疾患に対する分子病因の探索に有効性を示すと共に、幅広い原因不明な疾患の分子病因の解明へ新しい研究戦略を示唆するものです。
本研究成果は、2021年4月20日(米国西海岸時間)に、『Neurobiology of Disease』のオンライン版に掲載されました。