慶應義塾大学医学部眼科学教室の坪田一男教授、小川葉子特任准教授、山根みお(研究当時:大学院医学研究科博士課程)、佐藤真理(大学院医学研究科博士課程4年)、清水映輔特任講師らは、慢性移植片対宿主病(chronic graft-versus-host disease: cGVHD)マウスモデルを用いた実験とヒトの症例から、その病態形成に細胞老化が関与することを発見しました。
老化細胞は細胞老化関連分泌形質(senescence-associated secretory phenotype: SASP)因子を分泌し慢性炎症を促進することが知られています。今回、cGVHDマウスモデル、およびヒトのcGVHD症例の主に涙腺で、主要なSASP因子の発現が亢進していることと、細胞老化が促進していることを発見しました。また、これより、老化細胞選択的除去剤の一つであるABT-263(Navitoclax)が眼におけるcGVHDの治療に役立つ可能性を着想しました。cGVHDマウスモデルにABT-263を投与すると、老化細胞の蓄積抑制とSASP因子発現の低下を認め、眼におけるcGVHDの病態抑制効果が認められました。
骨髄移植は、血液悪性疾患に対する根治療法として広く行われていますが、晩期合併症であるcGVHDは治療に対する大きなリスクとなっていました。本研究の成果によって、老化細胞選択的除去剤が眼におけるcGVHD治療の選択肢の一つとなる可能性が示されました。本薬剤は、全身cGVHD抑制にも役立つ可能性があると考えられ、今後の研究で検証していく予定です。
本研究成果は、2020年7月3日(アメリカ東部時間)、学術科学雑誌『The FASEB Journal』に掲載されました。