慶應義塾大学医学部生理学教室の菅田浩司専任講師、岡野栄之教授らの研究グループは、脳が異物侵入を防ぐためのバリア機能の形成に必要なメカニズムを発見しました。
体の中を流れる血液の約15%は脳に存在しており、栄養の運搬や不要物質を搬出しています。従って、神経細胞や脳の精緻な機能を維持するためには、有害な物質が血管から脳に漏れ出ないようにする仕組みや、不要な物質を速やかに血液中に押し戻す仕組みが必要です。脳内の毛細血管が有するこのようなバリア機能を血液脳関門と呼び、その機能は脳の炎症や脳腫瘍、さらには加齢によっても低下することが知られています。しかし、血液脳関門の形成や機能を維持する仕組みの多くは未解明でした。
今回、医学・生物学分野で古くからモデル生物として汎用されているショウジョウバエの脳とそのバリア機能を実験モデルとして、この仕組みの解明に取り組みました。ヒトとショウジョウバエでは、脳と血液 (ハエでは体液) の接触を厳密に制限する仕組みや、それを制御する遺伝子に共通点が多いことが知られています。
今回の研究の結果、バリア機能をもつ血液脳関門の仕組みが正しく形成されるためには、マトリックスメタロプロテアーゼ(Mmp)というグループに属するタンパク質分解酵素が不可欠であることを発見しました。これまで、この酵素は脳の炎症などにおいて、血管周囲のコラーゲンなどを分解することで血液脳関門の機能を低下させる「壊し屋」として知られていました。
本研究は、血液脳関門の形成における分子機構を明らかにするとともに、今後の脳疾患の治療や神経再生医療、さらにはiPS細胞等から血管内皮細胞を誘導する際の血液脳関門のバリア機能の向上に貢献することが期待されます。
本研究成果は『iScience』(オンライン版)で2019年6月11日(火)(米国東部時間)に公開されました。
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