JST 戦略的創造研究推進事業の一環として、豊橋技術科学大学の後藤 太一 助教と慶應義塾大学 理工学部の関口 康爾 専任講師らのグループは、磁石の波であるスピン波を位相干渉させることで、スピン波演算素子を実現しました。
これまでのスピン波に関する研究で、位相干渉は実現されていましたが、その演算素子としての機能の実証は不十分でした。また、演算素子の全ての機能を実現するのに不可欠な、否定論理積(NAND)と否定論理和(NOR)が実現されていませんでした。
本研究グループは、磁性絶縁体である磁性ガーネットをフォーク型(Ψ型)に加工し、3つの枝からスピン波を入力し接続点で位相干渉させ、幹の部分にその結果を出力することで否定論理積の演算を実現しました。結果はこれまで報告されている強度情報ではなく位相情報として現れており、否定論理積および否定論理和の両方を1つの入力位相によって切り替えることも可能になっています。
本研究により、今回の成果よりもさらに多くの入力情報を1点で一度に同時処理可能な演算素子の開発が可能で、従来の電子回路では発想できなかった飛躍的な処理機能を持つデバイスの実現が期待されます。
本研究は、豊橋技術科学大学の金澤 直輝 特別研究員、高木 宏幸 准教授、中村 雄一 准教授、内田 裕久 教授、井上 光輝 教授、モスクワ大学のグラノフスキー 教授、マサチューセッツ工科大学のロス 教授らと共同で行ったものです。
本研究成果は、2017年8月11日(日本時間19時)に英国科学誌「Scientific Reports」に掲載されます。
ポイント
- 磁石の波であるスピン波は、電気を流さず伝えられるため次世代省エネルギーコンピューターへの応用が期待されているが、実際に論理演算を可能にするスピン波回路は実現していなかった。
- スピン波回路の形状を制御することで、全ての基本演算パターンを実現するデバイスの実証に成功した。
- デバイスの微細化や多段化を進めることで、発熱が少なく処理性能の高い新たなコンピューターの開発が期待される。
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