12月4日(水)、三田演説館にて三田演説会を開催しました。三田演説会とは、“Speech”を「演説」と訳した福澤諭吉が演説を教育の一環として取り入れ、明治7(1874)年に門下生とともに組織した会です。発足当初から慶應義塾生のみならず一般の人々にも公開され、150周年を迎えた今回は、「幕末薩摩の若者たちと私-薩摩スチューデントを追って-」というテーマで、作家・国文学者の林望君が講演を行いました。
林君は2010年に、幕末に薩摩藩から極秘裏に英国に派遣された留学生らの事績を描いた『薩摩スチューデント、西へ』という長編歴史小説を書いています。本講演では、小説執筆の経緯や日英両国での徹底した実地調査と史料博捜の日々、その中で見えてきた薩摩の若者たちの実像が語られました。
林君はまず、立ち寄る港ごとに学びを得られるように通訳付きの手厚い待遇で、攘夷派の若者も含めた留学生を派遣した薩摩藩の慧眼を称えました。また、薩摩スチューデントが立ち寄った香港やボンベイ、マルタ島などの当時の地図や、スエズ運河の工事写真が載った新聞記事などを英国の大学や古書店で調べあげたことが、つぶさに語られました。時には英国で当時と同じコースをたどる鉄道に乗り、留学生らが1860年代に実際に見たであろう景色を小説に描いたといいます。最後に、英国人が薩摩スチューデントの優れた知性と科学的な思考法に感銘を受けていたことがわかる新聞記事に触れ、彼らがテクノクラートとして後の明治政府で陰に日向に大きな役割を果たしたことが示されました。
満席の三田演説館では、聴衆が林君によって熱く語られる薩摩スチューデントの実像に時間を忘れて聴き入り、150周年にふさわしい演説会となりました。
なお、本講演録は『三田評論』2月号に掲載されます。
◆KeioTimes:「三田演説会」150周年
◆第713回三田演説会 ショート動画