慶應義塾大学再生医療リサーチセンターの岡野 栄之 センター長/教授(研究当時:應義塾大学医学部生理学教室・教授)、慶應義塾大学医学部内科学(神経)教室の伊東 大介 特任教授(研究当時:應義塾大学医学部生理学教室・特任教授)、慶應義塾大学医学部内科学(神経)教室の岡田 健佑 助教らの研究グループは、筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic Lateral Sclerosis: ALS)の新規モデルマウスをゲノム編集技術CRISPR-Cas9システムを用いて作成することに成功しました。このモデルマウスには、本邦の家族性ALSにおいてSOD1遺伝子の異常に次いで多いFUS(fused-in sarcoma)遺伝子の異常(FUS-H517D)に相当する点変異を導入しました。今回作成したマウスは、従来のトランスジェニックマウスとは異なり、ゲノム編集技術を用いて内在性のFUS遺伝子の遺伝子変異を加えることで、より生理的な条件で、患者に近い疾患モデルとして病態解析や治療薬開発への応用が可能です。このモデルマウスは、加齢とともに歩行などの運動機能障害を示し、脊髄運動ニューロンの減少に加え核膜および核膜孔の障害、DNA障害を認めました。さらに、我々が確立した同一の変異(FUS-H517D)を持つALS患者由来のiPS細胞から分化誘導した運動ニューロンでも核膜および核膜孔の障害を明らかにし、RNA-seq解析ではFUS-H517D変異を持つ運動ニューロンにおいて、核膜および核膜孔関連する遺伝子の多くが有意に発現低下していることが示されました。さらに、ALS患者の死後組織でも脊髄運動ニューロン神経の核膜および核膜孔の障害が示されました。
神経細胞において本質的である核膜の障害は、細胞の生存維持に決定的な要因となります。この核膜障害の改善なくしては、ALSの治癒は望めません。この研究成果は、ALSで見られる遺伝子異常を再現したゲノム編集マウスが、加齢に伴い運動機能障害を示し、脊髄運動ニューロンにおける核膜および核膜孔の障害がALSの決定的な病態メカニズムであり、新規治療ターゲットであることが示されました。ゲノム編集マウス・iPS細胞と患者病理検体といった研究材料を組み合わせることで、ALSの病態理解を深め、治療薬開発が飛躍的に推進されます。
本研究成果は 2024年9⽉24⽇午前5時(太平洋標準時)に、Oxford University Pressが発行する国際学術誌Brainに掲載されました。