筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis: ALS)は、運動機能を司る神経細胞が次第に壊れていく難治性の病気ですが、未だ有効な治療法がありません。近年の動物モデルを用いた研究によってその進行には脳を守るバリアである「血液脳関門(Blood-brain barrier : BBB)」の異常が関与していることが分かってきました。今回、山口大学大学院医学系研究科の西原秀昭助教らの研究チームは、慶應義塾大学、東北大学大学院医学系研究科の研究グループとの共同研究で家族性ALS患者由来のiPS細胞を使った新しいヒトBBB実験モデルを確立し、このバリア機能が家族性ALS患者のもつ遺伝的背景から影響を受ける可能性を明らかにしました。
この研究では、家族性ALS患者からBBBを構成する「脳微小血管内皮細胞(Brain microvascular endothelial cell : BMEC)」をつくり、バリア機能を詳しく調べた結果、患者由来の細胞ではバリア機能に異常があり、外部からの有害物質が脳に侵入するリスクが高まることが確認されました。さらに、この脳血管内皮細胞のバリア機能異常は炎症や神経細胞の損傷とは独立して起こっており、ALSの病態に関する新しい知見を示すものです。
また、研究チームは、患者由来BMEC様細胞の異常を修復する方法として、「Wnt/β-カテニンシグナル」を活性化することで、バリア機能が改善されることを示しました。これにより、本モデルがALS患者におけるバリア機能異常に対する治療薬の探索にも有用であることが示され、新たな治療法の開発が進むことが予測されます。
本研究は、ALSにおけるBMECの役割を解明し、治療に向けた新しいアプローチを示した点で重要な成果です。この研究結果は、Frontiers in Cell and Developmental Biology誌に2024年8月15日付で掲載されました。