慶應義塾大学理工学部応用化学科の高橋大介准教授、戸嶋一敦教授、大阪大学微生物病研究所の安齋樹助教、渡辺登喜子教授らの研究グループは、海藻のぬめり成分などに含まれるフコイダンの基本構造となる硫酸化四糖の類縁体(糖質)を化学合成し、COVID-19の重症度に関与する酵素ヘパラナーゼの阻害活性と新型コロナウイルス(以下、SARS-CoV-2)の感染阻害活性を評価しました。その結果、本類縁体が、ヘパラナーゼ阻害活性とSARS-CoV-2感染阻害活性の両方の機能を併せ持つことを明らかにし、COVID-19の重症化を抑える治療薬のリード化合物として有望であることを見出しました。
天然由来フコイダンがSARS-CoV-2の感染阻害活性を発現することは報告されていましたが、構造が不均一な多糖であるために、どの部分構造が活性発現に重要かが判明していませんでした。本研究グループは、これまでに硫酸化パターンと糖鎖構造が種々異なる13種類の硫酸化四糖(フコイダン類縁体)を化学合成し、SARS-CoV-2の表面抗原であるスパイクタンパク質に対して結合活性が高い類縁体を見出していました。本研究では、見出していた類縁体のうち、アグリコン構造をオクチル基からコレスタニル基に変更した新規類縁体が、スパイクタンパク質に対して高い結合活性を発現することを明らかにしました。さらに、本類縁体は、COVID-19の重症度と相関して発現レベルが上昇するヘパラナーゼの活性も阻害することを突き止めました。加えて、本類縁体がCOVID-19パンデミック発生当初の武漢株だけでなく、オミクロン株BA.2及びBA.5といった変異株の感染も抑制することを見出しました。以上のことから、今後、様々な変異株に有効かつ重症化を抑える新たなCOVID-19治療薬の開発への寄与が期待されます。
本研究の成果は、2024年10月7日に、ドイツ化学会誌「Angewandte Chemie International Edition (アンゲバンテ ヘミー インターナショナル エディション)」のオンライン版で公開されました。