花粉症をはじめとするアレルギーは国民病となっています。現在、舌下療法などのアレルゲン免疫療法が根治療法として広く用いられていますが、口の中やのどの腫れ、かゆみなどの副作用の発症率が高く、また数年にわたる毎日の投薬が必要であるため、治療の途中で投薬をやめてしまう患者が多い状況です。また、気管支喘息やアトピー性皮膚炎の重症の患者には適用できない場合があります。
今回、副作用が起こりにくく安全性が高い上に、治療効率が高い、経口投与で効果を示すナノ粒子製剤の開発に成功しました。
九州大学大学院工学研究院の森健准教授、片山佳樹教授、李順怡博士、九州大学病院耳鼻咽喉・頭頸部外科の村上大輔講師、慶應義塾大学薬学部の長谷耕二教授、同大学院薬学研究科修士課程2年生 鳥海広暉の研究グループは、酵母細胞壁から抽出したマンナンによってアレルゲンタンパク質を被覆したナノ粒子の大量生産可能な作製法を開発しました。得られた粒子をアレルギーモデルマウスに経口投与したところ、従来のアレルゲンタンパク質をそのまま用いる方法に比べて、アナフィラキシー応答を示さず、かつ高い治療効果を示しました。アレルゲンがマンナンで被覆されることで抗体と反応しないため、高い安全性を示しました。またマンナンによってアレルゲンが樹状細胞へ送達されるとともに、樹状細胞を寛容性に誘導することにより、効率良く制御性T細胞を誘導することがわかりました。
治療効率、その効果の高さにより、治療期間の短縮も期待され、また安全性が高いため、これまで適用の難しかった重症の患者のみならず、乳幼児に適用できる可能性があります。また、アレルギー体質になると次々と別のアレルギーに罹患し続ける「アレルギーマーチ」を早期に断ち切る可能性がある治療薬になることも期待されます。
本研究成果は、米国の雑誌「Biomaterials」に2023年11月5日(現地時間)に掲載されました。