がんにおいてインターロイキン6(IL-6)はがんの成長や増悪化に関与すること、また、免疫抑制に働く細胞を誘引して抗腫瘍免疫反応を抑制することが知られていますが、慶應義塾大学医学部微生物学・免疫学教室の三瀬節子助教、吉村昭彦教授らの研究グループは、SOCS3というサイトカイン抑制因子をT細胞で無くすと、本来、腫瘍を成長させる悪玉サイトカインであるIL-6が逆に強い腫瘍殺傷能力を誘導する因子になることを発見しました。
IL-6はIL-6受容体を介して細胞内にシグナルを伝達します。通常SOCS3はこのシグナルを抑制し、恒常性を保っています。本研究グループは、T細胞でSOCS3を無くすと、IL-6の作用の性質が変化して、代謝状態が変化することで腫瘍を殺す細胞傷害性T細胞(キラーT細胞)の能力が亢進し、同時に免疫反応を抑える制御性T細胞が減ることを明らかにしました。その結果、SOCS3を発現しないT細胞を持つマウスでは、移植された腫瘍の成長が著しく抑えられました。さらにヒトの血液がんの治療に用いられるCAR-T細胞で人為的にSOCS3を抑えると、強いキラーT細胞が得られ、ヒト化マウスにおいてヒトB細胞白血病への治療効果が増強され、マウスの寿命を延長することができました。
この研究はIL-6を多量に発現し治療しづらいがんであっても、SOCS3を標的にすることで有効な治療法を開発する手掛かりになることが期待されます。
本研究成果は、2023年8月14日午前11時(米国時間)に、アメリカのCell出版社が発行しているCell Reportsに公開されました。